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大阪高等裁判所 昭和41年(く)122号 決定 1967年1月19日

主文

原決定を取り消す。

本件を神戸家庭裁判所尼崎支部に差し戻す。

理由

本件抗告の趣意は原裁判所の決定は少年を和泉少年院に送致するというのであって、原裁判所の裁判官は右告知のさい六ヶ月の収容期間中に同所で自動車運転免状を取るようにと告げられたのに、少年が同少年院に送致せられずに浪速少年院に送致せられたのは納得できないから抗告の申立をするというのである。

よって案ずるに、原裁判所が少年を中等(B1)少年院に送致する旨の決定をなし、これを告知するとともに、右少年院は和泉少年院であってその収容期間は六ヶ月であること等の説示を加えたことは右決定書および本件記録に徴し明らかである。

しかして、大阪矯正管区所定の保護少年分類規定によると同管区所管の(B1)中等少年院である和泉少年院に収容すべき少年は過去に少年院収容等の特別不良歴のないこと、非行が比較的固定していないものであること等の者に限り特別不良歴のある他のB2、B3級少年と収容分類基準を異にしていることが認められる。

原裁判所が右の如く少年に対し特に(B1)と記載して決定した所以は記録ならびに本件抗告に対する原裁判所の意見書記載によると少年の四国における少年院収容の前歴を看過したため右分類規定のあてはめを誤ったうえ少年の職業についての希望を参酌し社会復帰のための矯正教育として少年に自動車運転免許資格を取得せしめることに重点をおき、その訓練指導をしている和泉少年院に送致することとしたものであって右意図を明確に感銘せしめるためわざわざ少年に対し右少年院は所謂短期訓練教育の少年院で、収容期間は原則として六ヶ月前後であることを告げ更生を促した事実が窺われる。

ところが右決定の執行に当る少年鑑別所は少年が昭和三九年一二月一一日高松家庭裁判所で傷害等の非行により四国少年院(中等少年院)に送致せられて同四〇年一〇月一八日仮退院した前歴があることから、右分類規定に所謂特別不良歴のないことの条件に抵触するとして右決定の(B1)の特定には拘束されないものと解し(B1)中等少年院である和泉少年院に送致しないで右分類規定上の該当少年院である(B3)浪速中等少年院に送致するに至ったものであることが認められる。

ところで少年法二四条一項三号少年審判規則三七条一項二項少年院法二条によれば裁判所が少年を少年院に送致するには送致すべき少年院の種類を指定して言い渡すべく、少年鑑別所は裁判所の決定の範囲内において収容すべき少年院を特定すべきものであるから裁判所がこれ以上主文において具体的に収容すべき少年院の特定までを行うことは必ずしも望ましいことではないわけであるけれども少年鑑別所に対し正しい分類に指針を与えその裁量の濫用を控制する等の必要から主文において少年院の特定をすることを目してあながち違法視することはできないものと認める。しかし本件は原裁判所が少年に特別不良の前歴のあることを看過した結果少年院の特定をまったく誤り収容不可能な少年院に送致した点に問題があるのであって、かかる決定が少年鑑別所を拘束するかどうかは別論として、少くとも、原裁判所が少年の前歴に関する事実を誤認した結果右分類規定のあてはめを誤り収容することの不可能な(B1)少年院に送致決定をしたことは審判手続殊にその言い渡し手続に法令の違反が認められ、この違反は原決定に影響を及ぼすことが明らかであるから、原決定はこの点において取り消しを免れない。従って本件抗告はその理由があるに帰する(なお差し戻しを受けた原裁判所は本件につき更に審判をなすに当っては本件の経緯と少年が既に浪速少年院に長期間収容せられておる実状とを省察し少年の処遇については一段と慎重な考慮を払われることを希望する。)

よって少年法三三条二項少年審判規則五〇条により主文のとおり決定する。

(裁判長裁判官 畠山成伸 裁判官 柳田俊雄 八木直道)

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